2016年7月8日金曜日

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Z東大法学部の矛盾

2015年6月6日土曜日

公法系第1問


第1                     設問1(以下憲法は法名略)

1 小問(1)

(1)    甲市シンポジウムでの発言、Y採掘事業に対する反対意見を理由に、A市がBの正式採用を拒否したことは、「信条」(141項後段)による差別として違憲無効である。

ア 反対意見の表明、Y採掘事業の反対意見はBにとっては、Y採掘という住民の生命身体に対する危害を及ぼし得る事業を安全性の確証なく行うことは許されないというBの世界観、人生観に関わるもので「信条」に当たる。

 Bは正式採用を拒否されているが反対意見を有しないDはBよりも勤務成績が下回るのに正式採用されており、Cのように暴力行為に及んだわけでもないのにCとともに正式採用を拒否されているから、「信条」を理由とした区別がある。

イ 「差別」は合理的理由のない区別をいうところ、上記信条はBにとり極めて重要であり、また政治的意見の表明であって、発表によって自己の人格形成に資し、住民の判断の資料となる自己統治の価値をも有する重要な権利であるから、区別は厳格にその合理性が認められなければならない。試用期間は解約権留保付労働契約が成立しており、正式採用の拒否は留保解約権の行使と解されるところ、解約権留保の趣旨目的が重要なものであり、信条を理由として留保解約権を行使することが解約権留保の目的に照らし、必要最小限度のものといえるかで判断する。

 本件での解約権留保の目的は、Y採掘という住民に危険が及びうる事業に関し危険を除去し、住民の不安感を取り除くため、そのような重要な職務に耐えうる人材かどうかを見極めるために信条を調査することにある。しかしY対策課は危険性関して住民の不安が生じるY採掘事業の安全性に対する信頼を確保するために設置されているところ、住民の安全性への信頼を確保するには賛成意見を持つ者のみではなく反対意見を持つものをも職員に加え、慎重な政策判断を期することが重要であり、Y採掘事業への賛否を考慮することに重要な目的があるとはいえない。仮に目的が重要だとして、Bは大学院でYに関し真摯に研究したうえで甲市シンポジウムで研究成果としてYの安全性について真摯に説明をしたのであり、Y採掘事業への信頼を損ねるものではないから反対意見を有しないDとの区別は不当である。またY対策課への信頼を確保するためにはCのような暴力的なものを排除する必要がありうるとしても、BはCと異なり、Y対策課でY採掘事業に関する安全性を高めるという真摯な動機から応募したのであり、Cと同列に扱って留保解約権を行使することは必要最小限度のものとはいえない。

ウ したがって141項後段に反する。

(2)    Bの持つY採掘事業に対する反対意見を考慮して正式採用を拒否したことは思想良心の自由(19条)を侵害し、違憲無効である。

ア BのY採掘事業に対する反対意見は前述のように、危険な事業によって住民に危害を及ぼしてはならないというBの世界観、人生観に関わる「思想」である。

 そして「侵してはならない」には「思想」を理由とする不利益取り扱いの禁止の要請を含むと解されるところ、A市によるBの反対意見を理由とする正式採用拒否は「思想」を理由とする不利益取り扱いである。

 思想良心の自由は内心にとどまる限り絶対的に保障されるから、反対意見という「思想」を有するがゆえに正式採用を拒否することは19条に反する。

イ 仮にA市がBの甲市シンポジウムでの反対意見の発表を考慮したにすぎず、「思想」そのものを理由とした正式採用拒否でなかったとしても、「思想」は発表されることによって表現の自由(21条)として前述の通りの自己実現、自己統治の価値を有するものであり、内心にとどまるだけではその価値を十分に発揮できないものであるから、外面的行為への制約であることをもって制約が小さいということはできない。そこで、制約の目的が必要不可欠であり、手段がやむに已まれぬ必要最小限度のものであることを要する。

 本件についてみるに、Y対策課の設置目的からしてBの正式採用拒否に際して上記事情を考慮した目的は、Y採掘事業という住民に不安を与えかねない事業に当たり、Y対策課として不安感を取り除き信頼を確保するため、不安をあおりかねない人物を排除することであると考えられる。かかる目的はY採掘事業を住民の理解を得たうえで円滑かつ安全に進めるために必要不可欠なものである。しかし、Bは甲市シンポジウムで反対意見を発表したのは安全性に関する真摯な動機からであり、

内容も研究成果に基づいたものでいたずらに不安をあおるものではない。したがってこのような発表を理由として正式採用拒否という手段をとることは必要最小限度のものとはいえない。

ウ よって19条に反し違憲無効である。

2 小問(2)

(1)    141項後段違反の点について

ア A市としては、考慮したものはBのシンポジウムでの発言であり、反対意見そのものでない。発言による弊害を考慮したものであり、「信条」を理由とした区別の側面がありうるとしても間接的付随的なものである。

イ 間接的付随的なものであり、制約が小さこと、公務員の採用に関しては地方自治体に裁量権が認められることから、解約権留保の趣旨目的が正当であり、その行使が目的との関連で合理的なものであれば許容される。

 本件についてみるに、目的はY採掘事業に関する安全性に対する住民の信頼を確保するとともに、公務員の政治的中立性を確保し、もってY対策課の業務の円滑を図ることにある。Y採掘事業は再生可能資源として将来のエネルギー源としての重要性が明らかであり、Yが埋蔵されているA市においては事業を円滑に進めることは極めて重要である。そうすると、かかる目的は正当である。そしてBは甲市シンポジウムという多くの市民の関心のある場でY採掘事業に関し反対意見を述べており、このような人物をY対策課に採用することはY対策課全体がY採掘に危険性を認識しているかのような印象をもたらしかねず、信用性を害し行身に支障を生じかねない点でCとも変わりなく、留保解約権行使の手段をとったことは合理的である。

ウ したがって141項後段には反しない。

(2)    19条違反の主張の点について

ア 反対意見を表明し公務員の政治的中立性を害することによりY対策課への住民の信頼、業務の円滑を害することを防止しようとするものであり、専ら外面的行為に着目したものであるから「思想」に対する制約は仮に存在するとしても間接的付随的なものである。

イ 制約は小さいから緩やかに、目的が重要でかつ手段が目的と合理的関連性を有すればよい。

 本件についてみるに、目的は前述のとおりY対策課という安全性を担う部門の信頼を確保し、公務員の政治的中立性を保つという重要なものである。手段はA市職員として採用しないというものにすぎず、思想を否定するようなものではない穏当なものであって、これにより上記目的が達成されるから合理的関連性が認められる。

ウ したがって19条に反しない。

第2                     設問2

1 141項違反の点

(1)     反対意見の表明を考慮したに過ぎないとしても、そこからBのYへの慎重な意見という、原告主張のとおりの「信条」が推知されるものであり、反対意見の表明を理由とする区別は「信条」を理由とする区別に異ならない。

(2)     141項の禁止する「差別」とは実質的・相対的平等の保障を意味し、合理的理由のない区別を禁止したものである。原告主張のとおりの「信条」の重要性、141項後段が原則として不合理な差別を列挙したものであることから、合理的な区別といえるためには、厳格に、目的が重要で手段が必要最小限度のものでなければならない。

 本件についてみるに、解約権留保の趣旨目的は、Y採掘事業という極めて資源政策上重要なものでありY採掘事業を安全性を確保しつつ行い、かつ住民の理解を得、公務員の政治的中立性を確保することにあり、かかる目的は重要である。しかしながら、Bのように穏当に意見を表明したに過ぎないものについて暴力的なCと同列に扱い留保解約権を行使すること、甲市シンポジウムはBが試用される以前のことであり、今後公務員としての立場をわきまえて住民の不安をあおりかねない意見の表明を控えるように注意することでも上記目的を達成できることから、必要最小限度の制約とはいえない。

(3)     したがって141項に反する

 2 19条違反の点について

(1)              A市はBの反対意見そのものを考慮したものではなく、甲市シンポジウムでの発言の経緯などを踏まえて正式採用を拒否したものとみることができ、「思想」そのものを理由とする不利益取り扱いではない。

(2)              もっとも思想良心の自由はほとんどの場合外面的行為を理由としてなされるから外面的行為を理由とする間接的付随的な制約であるとして緩やかに正当化されるべきでなく、思想良心の自由の重要性にかんがみ、目的が重要で手段が必要最小限度といえる場合にのみ正当化される。

     本件についてみるに、目的はY対策課への信頼、公務員の政治的中立性を確保することにあり、Y採掘事業という住民が極めて重大な関心を有する事業についてであるからかかる目的は重要である。一方で手段はBに対する留保解約権の行使であるが、Bは以前に甲市シンポジウムで真摯に反対意見を述べたのみであり、応募の契機も安全性の向上を目指すという真摯なものであったのであるから、公務員の政治的中立性を害するなどして公務の円滑等への弊害を生じる恐れは、暴力的なCと異なりいまだ抽象的なものであり解約権行使という最終手段を用いることは最小限との制約とは言えない。

(3)             したがって19条に反する。 以上

公法系第2問


第1                     設問1 

1 Xとしては処分の差止めの訴え(行政事件訴訟法(以下「行訴法」という。)37項)として本件命令の差止めを求めることが考えられる。

(1)    「一定の処分」が「されようとしている」といえるか。(行訴法37項)

ア 「一定の処分」とは行政庁の第一次的判断権の尊重の観点から、裁判所の判断が可能な程度に特定された処分をいう。そして、処分とは国または公共団体の行為のうち当該行為によって国民の権利義務を形成し又はその範囲を画することが法律上認められているものをいう。「されようとしている」といえるためには、事前救済の必要性の観点から、近い将来当該処分がされることが相当程度の蓋然性をもって予想されることを要すると考える。

イ 本件についてみるに、前提として処分性を検討するに本件命令は消防法122項に基づきY市長により発せられるもので、これにより本件取扱所の具体的な移転義務がXという個人に課せられるものであり、個人の権利義務を直接変動させるものであるから処分性が認められる。

 本件命令の内容は本件取扱所の移転命令という形で裁判所が判断可能な程度に特定されているから「一定の処分」といえる。

 そして、Y市消防行政担当課は本件葬儀場が操業開始されれば本件命令が確実に発せられることを表明しており、本件葬儀場は平成275月末には操業開始が予定されているから、相当程度の蓋然性をもって近い将来本件命令が発せられることが予想される。

ウ したがって「一定の処分」が「されようとしている」といえる。

(2)     Xは本件命令の相手方であるから、処分の差止めついて「法律上の利益」(行訴法37条の43項)は当然に認められる。

(3)     本件命令はいまだ発せられておらず、本件命令には前述のとおり処分性があるため抗告訴訟のうち差止め訴訟によるしかない。本件命令は後述のとおり一度発せられたら回復困難な損害が生じるので、のちの取消訴訟によって争ったとしても実効性を欠く。したがって「他に適当な方法」(行訴法37条の41項ただし書)がないといえる。

(4)     「重大な損害を生ずるおそれ」(行訴法37条の41項)が認められるか。

ア 「重大な損害」といえるためには、差止め訴訟が法定された権利救済の拡大の観点から必ずしも事後的な金銭賠償による回復が不可能であることまでは要しないが、金銭賠償によることが困難であることを要する(行訴法37条の42項参照)。

イ 本件についてみるに、、本件命令が発せられれば消防法122項により移転が義務付けられ、適法に営業できなくなりうる上に、Y市では移転命令に際し処分の相手方を公表するという措置をとっているから本件命令とともに公表がなされることは確実である。公表がなされれば、Xに対する取引先の信用を損ねることになり、一度損なわれた信用は回復が困難である。移転費用や操業停止等による金銭的損害をも考慮すれば、Xの事業の存立にかかわる損害を生じるものであり、事後的な金銭賠償による回復は困難である。

ウしたがって「重大な損害を生ずるおそれ」が認められる。

2 よって上記訴訟を適法に提起できる。

第2                     設問2

 1 本件基準の法的性質

(1)     危険物政令911号ただし書は本件命令の根拠法規たる消防法12条2項および同法104項の委任を受けた政令である。危険物政令9条11号ただし書は「市町村長等が安全であると認めた場合」について同号本文の保安距離の短縮を認めており抽象的文言をとっていること、前述の条坊法が1条において「火災を予防し、警戒し及び鎮圧し、国民の生命、身体及び財産を火災から保護する」ことを目的としており上記目的の達成のためには地域の実情に応じた防火設備等についての知見を要することから、危険物政令9条1項ただし書該当性について市町村長等の専門技術的判断にゆだねる趣旨であると解され、Y市長に要件裁量が認められる。

(2)     本件基準はY市長が同号ただし書の適用に当たってよるべき基準を示したものであり、裁量行使の合理性を担保するものであるから、裁量の基準である。

(3)     同号ただし書は製造所等の設備そのものに変更がない場合に、消防法122項に基づく移転義務が生じることをできるだけ防ごうとする趣旨の規定である。そして本件基準は裁量行使の合理性を担保するためのものであるから、合理的なものでなければならないが、本件基準①は建築基準法上倍数制限が置かれていない工業地域について倍数50以上であることをもって一律に保安距離の短縮を認めない運用をとっており、上記のただし書の趣旨に反するものであって不合理である。

 したがって本件基準①を適用すべきでない。

(4)     危険物政令9条11号ただし書は既存の製造所に関して適用されることが想定されており、新たに設置される製造所に適用されるものではない。そうだとすれば前述の保安距離の短縮による移転義務回避の趣旨から、安全性についての判断は既存の施設の設備状況、対応等を考慮して個別具体的になされるべきである。

 本件基準②は倍数10以上の場合には一律に保安距離を20メートルとしているが、上記趣旨から本件基準②を既存の本件取扱所について適用すべきではない。

 Xは本件基準③で定める高さ以上の防火壁を設けることや法令で義務付けられた水準以上の消火設備を増設する用意があるのだから、実質的な危険は生じない可能性が高いから、かかる点を考慮して保安距離を短縮すべきである。

2 危険物政令911号ただし書と同23条の関係について

(1)     危険物政令23条は、昭和34年の消防法改正によって統一基準が設けられたことに伴い、基準に適合しない特殊な建造物等の出現に備えてもうけられたものである。そうだとすれば同23条はそもそも同9条の基準を適用すべきでない場合を規定したものであると考えられる。

(2)     もっとも同911号ただし書は保安距離の短縮について行政庁の合目的的な裁量にゆだねており、実質的には保安距離の基準を適用しないことと同じである。そうだとすれば、911号の基準以外の基準の適用を認めつつ、同23条の適用を認めることは、建造物の構造に応じて柔軟に一部の基準を適用除外することで実情に応じた対応を可能にするという趣旨にかなうものである。

(3)     本件についてみるに本件取扱所はXが法令で定められた基準以上の防火措置をとることによって、同23条の適用の余地もありうるものである。

3 上記の事情を考慮することなく、本件基準を適用して本件命令を発することは、安全性に関する実質的な考慮を欠き重大な事実の基礎を欠くことになり、Y市長の裁量の逸脱濫用(行訴法30条)となる。

第3                     設問3

 1 損失補償(憲法293項)が認められるか。

(1)     損失補償は特定人の財産権に対し制約を加える際にその損害を公平に分担しようとするものである。もっとも「財産権の内容は、公共の福祉に適合するやうに、法律でこれを定める」(憲法292項)とされ、もともと内在的制約の要請が強い。そうだとすれば「公のために用ひる」とは特定人の財産権に対し財産権の本質的な部分に対するような強度の制約(特別犠牲)があった場合をいい、財産権の内在的制約が現実化したに過ぎない場合には原則として特別犠牲に当たらないと考える。もっとも、行政庁の行為を信頼し、長年にわたり当該財産権の内容が維持され、内在的制約の現実化の原因が行政庁の行為にある場合のように、損害を被処分者に負担させることが著しく正義に反するような事情がある場合には、信義則上(民法1条)損失補償を認めるべきである。

(2)     本件についてみるに、消防法12条はそもそも本件取扱所について消防法104項の基準に適合することを条件として設置を認めており、本件葬儀場の設置に伴う移転命令は基準の不適合という内在的制約の現実化に過ぎないから特別犠牲に当たらないとも思われる。

 もっとも、本件取扱所は平成17年から現在に至るまでの約10年もの長期にわたり本件土地で適法に操業を続けていた。本件葬儀場の所在地はもともと葬儀場の建設の許可されない地域であり続けたのにもかかわらず、平成26年の都市計画決定によって初めて建設が可能となったのである。そうだとすれば、上記の内在的制約の現実化は専ら行政庁の行為によって生じたものであり、それによってXは多大な負担を強いられているのであるから、これを補償しないことは著しき正義に反する。

(3)    したがって特別損害に当たる。

2 よって損失補償は認められる。 以上